大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)2620号 判決

控訴人・被参加人(以下「控訴人」という)

河原林孟夫

右訴訟代理人弁護士

石田晶男

被控訴人・被参加人(以下「被控訴人」という)

有限会社 葵製紐所

右代表者取締役

安達敏郎

右訴訟代理人弁護士

藤平芳雄

当審当事者参加人(以下「参加人」という)

橋本治郎衛

右訴訟代理人弁護士

大野康平

大野町子

小田幸児

主文

一、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

二、控訴人は参加人に対し、原判決添付物件目録(一)記載の土地につき京都地方法務局京北出張所昭和四一年四月一三日受付第九三四号所有権移転請求権仮登記に基づく、同物件目録(二)記載の土地につき同法務局同出張所昭和四九年一一月一三日受付第一四四九号所有権移転請求権仮登記に基づく各本登記手続をせよ。

三、被控訴人は参加人に対し、参加人が前項の本登記手続をすることを承諾せよ。

四、被控訴人の控訴人に対する原判決添付物件目録(一)、(二)記載の各土地につき所有権移転登記手続を求める請求を棄却する。

五、訴訟費用は第一、二審を通じ参加により生じたものも含め、これを三分し、その一を被控訴人、その余を控訴人の各負担とする。

事実

第一、申立て

(昭和六〇年(ネ)第二六二〇号控訴事件)

一、控訴人

1. 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2. 被控訴人の請求を棄却する。

3. 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

1. 本件控訴を棄却する。

2. 控訴費用は控訴人の負担とする。

(平成二年(ネ)第四二四号参加事件)

一、参加人

1. 主文第二、三項と同旨

2. 参加による訴訟費用は控訴人及び被控訴人の各負担とする。

二、控訴人及び被控訴人

1. 参加人の請求を棄却する。

2. 参加による訴訟費用は参加人の負担とする。

第二、当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の事実摘示及び当審記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一、昭和六〇年(ネ)第二六二〇号控訴事件

1. 原判決の補正

原判決二枚目表末行の「の取締役であった安達敏郎は、原告のために」を「は」と改め、同裏二行目の「本件各土地」の前に「本件(一)、(二)の土地、又は」を加え、三枚目表三行目の「1のうち」から同四行目の「その余の各事実」までと、同六行目の「取締役安達敏郎」をそれぞれ削除し、同裏五行目冒頭の「原告」を「控訴人」と、同行の「安達敏郎」を「被控訴人」とそれぞれ改める。

2. 控訴人

(一)  本件各土地は控訴人が理事長を務める社団法人樹徳学寮協会(国内及びアジア・欧米からの留学生を受け入れて、座禅、学習、剣道等を通じて修行をする道場)の活動の中心地にあって、道場を建てる計画もあり、控訴人・右協会にとり特に重要な場所であり、他人にこれを売却することを控訴人が承諾するはずがない。

右協会はその活動の一環として、本件建物でプラスチック工場を経営していたが、経営に行き詰まり、昭和四二年一〇月には京都相互銀行から本件建物につき競売申立てをされるに至った。その結果、控訴人と被控訴人との間で、被控訴人が競落した本件建物において、被控訴人は少なくとも五年間製紐工場を営むことができ、その間、控訴人は右建物の敷地である本件各土地を被控訴人が無償で使用することを認める、その代わり五年後には、控訴人において、右競落代金相当額で右建物を買い戻すことができるとの合意が成立した。被控訴人の右建物競落は実質上控訴人に対する融資の趣旨であり、その金利は土地使用料を無償とすることにより得られる被控訴人の利得がそれに見合うものとされた(土地使用料を一か月三万円として、被控訴人の出資額一七〇万円に対する割合は年二一パーセントを超える)。

(二)  被控訴人が主張する本件売買契約については、西田株式会社の従業員である加藤鎭雄(以下「加藤」という)が関与しているが、加藤は被控訴人の希望条件を上司の西田忠次(以下「西田」という)に伝え、また西田を通じて得た控訴人の希望条件を被控訴人に伝える、いわば意思の伝達機能にすぎないものであり、したがって仮に加藤が被控訴人に対し本件各土地を売却する意思を表示したとしても、本人である控訴人の意思に基づかない以上、その効力はない。

また、仮に加藤や西田が控訴人の代理人として右売買契約に関与したとしても、控訴人は加藤らに右代理権を授与したことはない。

3. 被控訴人

控訴人の主張はすべて否認する。被控訴人は本件建物を修理し、機械も搬入し、従業員も雇用して右建物で紐製造を始めたのであり、土地付でない建物を購入することなどあり得ないことである。

ちなみに、本件売買契約当時の本件各土地の価格はせいぜい坪当たり一〇〇〇円くらいのものであり、被控訴人の買受代金の本件建物を併せて一七〇万円というのは時価を遙かに超えた額であった。控訴人が将来において本件各土地につき買い戻しの希望を持っていたことについては、被控訴人もその希望に沿うよう努力もしてきたが、これは本件売買契約の成立とは別の問題である。

二、平成二年(ネ)第四二四号参加事件

1. 請求原因

(一)  本件(一)の土地について

(1) 訴外社寺信用組合(以下「訴外組合」という)は、本件(一)の土地につき、京都地方法務局京北出張所昭和四一年四月一三日受付の左記各登記を経由した。

ア 第九三三号 根抵当権設定登記 原因・同月五日信用組合取引契約の同日根抵当権設定契約に基づく根抵当権の同月一三日追加担保契約、債権元本極度額五〇〇万円(この登記は、昭和五〇年八月一四日受付第一二八三号をもって、極度額五〇〇万円、信用組合取引、手形取引に変更されている)

イ 第九三四号 所有権移転請求権仮登記 原因・同月五日代物弁済予約

(2) 参加人は、昭和五〇年六月二五日、右担保権の債務者である控訴人に代って訴外組合に対し、残債務五〇〇万円全額を支払って、右組合から右債権とともに右各担保権の譲渡を受け、同年八月一四日、前記地方法務局前記出張所受付第一二八四号、第一二八五号をもって、これらの各権利の移転付記登記を経由した。

なお、右債権の遅延損害金は日歩七銭の約定であった。

(3) 参加人は、昭和五六年六月二四日ごろ到達した書面又は平成二年三月二日控訴人に到達した本件独立当事者参加申立書により、控訴人に対し、本件(一)の土地につき、前記代物弁済予約完結の意思表示をした。

(4) 参加人は、平成二年三月二日、控訴人及び被控訴人に到達した本件独立当事者参加申立書により、右両名に対し、仮登記担保法の趣旨に準じ、清算金は左記のとおり存在しない旨通知した。

ア 債権額   二三六三万〇五〇〇円

元本     五〇〇万円

遅延損害金 一八六三万〇五〇〇円

(仮に訴外組合の控訴人に対する確定判決に従い、残元本二六四万二五〇〇円を基本として右代払い後の損害金を計算しても、本件参加申立てをするまでの額は九八四万六〇六四円となり(期間一四年七月、日歩七銭)、その合計額は一四八四万六〇六四円となる)

イ 本件(一)の土地の見積額 三八九万九七〇〇円(坪当たり三万円と査定)

(二)  本件(二)の土地について

(1) 参加人は、昭和四二年一〇月二六日、控訴人から、本件(二)の土地ほか一筆の土地(本件(一)の土地)を代金一六〇万円、手附金三〇万円、残代金は農地法の許可あり次第、話し合いの上支払い、同時に所有権移転登記手続をするとの約定で買い受け、同日手附金三〇万円を、また昭和四九年一〇月二六日、残代金一三〇万円を控訴人に支払った。

右契約の性質は、条件付売買契約(ないし売買の予約)である。

(2) 右残代金を支払った昭和四九年一〇月当時、本件(二)の土地の現況は宅地となっていたが、地目変更がなされていなかったため、参加人は京都地方法務局京北出張所昭和四九年一一月一三日受付第一四四九号所有権移転請求権仮登記(原因・昭和四二年一〇月二六日売買予約)をした。

(3) 右土地は、その後昭和五一年四月二六日、畑から宅地に地目変更がされ、右仮登記に基づく本登記をするのに何らの障害もなくなった。

(4) 参加人は、昭和五六年六月二四日ごろ到達した書面又は平成二年三月二日到達した本件独立当事者参加申立書により、控訴人に対し、右売買予約に基づき予約完結の意思表示をした。

(三)  被控訴人は、本件各土地につき、昭和五一年三月二三日、前記地方法務局前記出張所受付第三八〇号により仮処分登記を経由しており、不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項の「登記上利害ノ関係ヲ有スル第三者」に当たるので、参加人が前記各仮登記に基づく本登記をするにつき承諾することを求める。

(四)  よって、参加人は控訴人及び被控訴人に対し、参加請求の趣旨掲記の判決を求める。

2. 請求原因に対する控訴人の認否

(一)  請求原因(一)の各事実は認める。ただし、遅延損害金の額は否認するが、清算金がないことは認める。

(二)  請求原因(二)の各事実は認める。

3. 請求原因に対する被控訴人の認否及び抗弁等

(一)  本件当事者参加に参加の要件があることは争う。

(二)(1)  請求原因(一)(1)の事実は認める。同(2)ないし(4)の事実は不知。ただし、参加人主張の附記登記がなされていること及び本件当事者参加の申立書により参加人主張の通知がなされたことは認める。

(2) 参加人の訴外組合に対する代払いには疑念がある。すなわち、参加人の主張によれば、代払いがなされたのは、被控訴人により本訴が提起された直後のことになるが、当時控訴人側は被控訴人に対する対抗手段を画策していたと思われること、当時訴外組合は本件建物の敷地である本件(一)の土地を担保に取っているのみであり、後記のとおり、控訴人所有の他の土地にはすべて参加人の仮登記がつけられたのであるから、訴外組合としてはこれを詐害行為として取消請求等をし得る状況にあったのに、これらの手続をとっていないこと等からみて、訴外組合作成の受領証等がない限り、参加人が訴外組合に右時期に五〇〇万円もの代払いをしたとは信じられない。

(三)  請求原因(二)(1)及び(4)の事実は不知。同(2)、(3)の事実は認める。

(四)  請求原因(三)の事実は認める。

(五)  本件(二)の土地についてなされている所有権移転請求権仮登記は実体のない仮装のものであり無効である。参加人は、本件(二)の土地と共に本件(一)の土地をも買い受けたと主張するのであるが、本件(一)の土地上には本件建物があり、当時右建物は京都相互銀行の申立てにより競売手続が進行中であり、第三者がこれを競落し借地権が設定され得る状況にあったから、通常このような土地を大金を払って買い受けることはしないものである。また、参加人の主張によれば、売買代金の二〇パーセントにも当たる手附金を支払いながら、七年間もの間仮登記もせずに放置していたというのであるが、これも信じがたいことである(同時に買い受けたという本件(一)の土地については仮登記もなされていない)。昭和四九年一一月一三日には、本件(二)の土地のほか、控訴人所有の田八筆、原野二筆、畑二筆について、同じく昭和四二年一〇月二六日売買予約を原因として、参加人名義の所有権移転請求権仮登記がなされているのであるが(丙第一号証の二参照)、間もなく被控訴人は右事実を知り、控訴人に抗議したところ、控訴人からは、訴外組合との裁判で敗訴し、強制執行をされるおそれがあるので、その対抗手段として所有の不動産に仮登記をつけたが、本件(二)の土地に右仮登記をつけたのは誤りであったから、直ちにこれを抹消するとの回答を得ている。なお、丙第二号証には、欄外に「対社寺信」「橋本名義の」との記載がなされているが、これが右事情をよく示している。

4. 抗弁に対する参加人の認否

本件(二)の土地についての所有権移転請求権仮登記が仮装のものであるとの主張は否認する。

理由

第一、平成二年(ネ)第四二四号参加事件について

一、昭和六〇年(ネ)第二六二〇号事件は、被控訴人が昭和四二年一二月九日に控訴人から本件各土地を買い受け所有権を取得したとして、控訴人に対し右所有権移転登記手続を求めるものであるが、これに対し、参加人は、事実審である当審において、右各土地には、参加人の代物弁済予約及び売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記がなされており、右権利に基づき参加人が右各土地の所有権を取得したとして、控訴人に対し右所有権移転請求権仮登記に基づく本登記手続請求を、また被控訴人が右仮登記に後れて仮処分登記を経由しているとして、被控訴人に対し右本登記をすることにつき承諾を求めて、控訴人及び被控訴人を相手方として当事者参加訴訟を提起しているのであり、右参加申立ては民訴法七一条後段の要件を具備しており適法というべきである。

二、本件(一)の土地について

1. 参加人主張のとおり、本件(一)の土地につき、訴外組合の所有権移転請求権仮登記及び参加人の右仮登記移転の付記登記がなされていること、参加人から控訴人及び被控訴人に対し清算金がない旨の通知がなされたことは全当事者間に争いがない。

2. 成立に争いのない甲第三号証、第一五号証、第二八ないし第三一号証、乙第八号証、丙第四ないし第一〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証、第七号証、控訴人(原・当審)及び参加人の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨並びに右当事者間に争いがない事実によれば、

本件(一)の土地は、昭和三三年一月二〇日、控訴人が相続によりその所有権を取得したものであるが、参加人が主張するとおり、控訴人は、昭和四一年四月五日、訴外組合との間で、信用組合取引契約を結ぶとともに、右取引から生じる債務を担保するため、本件(一)の土地につき根抵当権設定(極度額五〇〇万円)及び代物弁済予約の各契約を結び、右組合のため同月一三日その旨根抵当権設定登記及び所有権移転請求権仮登記(以下「本件根抵当権設定登記及び本件(一)の仮登記」という)がなされた。

ところが、控訴人は、経営していた事業(株式会社西日本プラステクセンター)の営業成績が振るわず、昭和四二年には、他の金融機関から競売を申立てられる状態に陥り、昭和四三年には、訴外組合からも右信用組合取引に基づく債務五〇〇万円及びこれに対する約定の日歩七銭の割合による遅延損害金の支払を求める裁判が京都地方裁判所に提起され(右提訴後に一部支払がなされ、残債務は二六四万二五〇〇円及びこれに対する昭和四四年五月一日から支払ずみまで日歩七銭の割合による遅延損害金となった)、第一、二審とも控訴人が敗訴し、上告したが、昭和四九年一一月八日、最高裁判所で上告棄却の判決が言い渡され、控訴人の敗訴が確定した。

ところで、控訴人は、前記のとおり訴外組合のため担保に入っている本件(一)の土地は、控訴人の事業や控訴人が設立・運営していた外国人留学生のための修行道場である社団法人樹徳学寮協会のために必要な土地であると考えており、右裁判の結果、訴外組合から前記担保権を実行され、右土地が、これについて控訴人の意向・希望等を全く考慮してくれないような人の手に渡ることを恐れ、中学時代からの友人であり、かねてから事業資金等の援助を受けていた参加人に右窮状を訴え、訴外組合への右債務を代払いしてもらうことにし、訴外組合と交渉して、右債務(残元本二六四万二五〇〇円とこれに対する昭和四四年五月一日からの日歩七銭の割合による遅延損害金)のうち、五〇〇万円を支払うことにより残余の債務を免除する旨の承諾を取り付け、昭和五〇年六月二五日、参加人から訴外組合に右五〇〇万円を支払ってもらい、同年八月一四日には、本件(一)の仮登記及び本件根抵当権設定登記につき、参加人名義に権利移転の各付記登記がなされた。

その後、参加人は控訴人に対し、再三右土地につき所有権移転登記手続をするよう求めていたが、本件(一)の土地は当時農地(畑)であったため参加人にはその取得資格がなく、また後順位の権利者もあって、本件(一)の仮登記に基づく本登記手続をすることができずにいたところ、昭和五一年四月二六日、本件各土地が共にその地目が畑から宅地に変更されたため、昭和五六年六月二四日、とりありず控訴人から参加人に対する所有権移転登記(原因・昭和四二年一〇月二六日売買)がなされた。

以上の各事実を認めることができる。

右認定事実によれば、本件(一)の仮登記は債権担保を目的とするものであり、また、被担保債務を代払いして、その権利者となった参加人は遅くとも昭和五六年六月二四日には右代物弁済の予約完結権を行使したと認められるのであり、前記のとおり、平成二年三月二日には、参加人から控訴人(及び被控訴人)に対し、清算金がない旨の通知もなされているというのであるから、同日から二か月を経過した時点で本件(一)の土地の所有権は控訴人から参加人に移転したということができる(右代物弁済予約は昭和四一年四月五日に結ばれたものであり、前掲甲第二九、三〇号証によれば、控訴人が訴外組合から借り受けた前記五〇〇万円の期限は幾度か手形が書き換えられて延期され、最終的に昭和四二年三月二日となっていることが認められるが、右認定のとおり、代物弁済予約の完結権が行使されたのは、仮登記担保契約に関する法律が施行された後である昭和五六年六月二四日であり、同法附則二条により、右代物弁済については右法律が適用されるというべきである。なお、清算金の有無等については、債務者である控訴人自身、清算金のないことを自認しており、清算金の支払請求がないから判断しない)。

3. したがって、控訴人は参加人に対し、本件(一)の土地につき本件(一)の仮登記に基づく本登記手続をすべき義務がある。

三、本件(二)の土地について

1. 参加人が本件(二)の土地につき、昭和四九年一一月一三日付所有権移転請求権仮登記(以下「本件(二)の仮登記」という)を経由していること、昭和五一年四月二六日右土地の地目が畑から宅地に変更されたことは全当事者間に争いがない。

2. 前掲甲第一五号証、控訴人(当審)及び参加人の各本人尋問の結果、右当事者間に争いがない事実によれば、参加人は、昭和四二年一〇月ごろ、前記認定のとおり、事業の経営が思うように行かず資金繰りに苦しんでいた控訴人から、その所有に係る本件(二)の土地(及び本件(一)の土地)を買ってくれるよう求められたため、一六〇万円でこれを買い取ることを承諾し、同月二六日ごろ、手附金三〇万円を支払ったのであるが、当時右土地は農地(畑)であり、農地でない参加人はその所有権を取得することができなかったため、残代金は参加人が右所有権を取得し、同人名義に登記をすることができるようになったときに払う旨の約束をしていたところ、昭和四九年一一月ごろ、右残代金一三〇万円を支払い、同月一三日、右土地につき昭和四二年一〇月二六日売買予約を原因とする本件(二)の仮登記を経由したこと、その後、参加人は控訴人に本件(一)の土地と同様、右土地についても所有権移転登記をするよう求めていたが、前記二で認定した本件(一)の土地の場合と同じ理由により(ただし、本件(二)の土地については、本件(二)の仮登記より先順位の権利者がいた)、右仮登記に基づく本登記をすることができず、地目が宅地に変更になった後、昭和五六年六月二四日に本件(一)の土地と共に右土地についても昭和四二年一〇月二六日売買を原因とする所有権移転登記をしたことを認めることができる。

被控訴人は、本件(二)の仮登記は実体のない無効のものであると主張する。確かに、昭和四二年一〇月二六日に契約を結び、手附金三〇万円まで支払っているというにもかかわらず、右仮登記がなされたのは七年後の昭和四九年一一月のことであり、しかも、参加人は本件(二)の土地と共に買い受けたという本件(一)の土地については右仮登記すらしておらず(参加人は、これにつき、昭和四九年一一月当時、参加人は前記控訴人の訴外組合に対する債務を代払いして右組合の本件(一)の仮登記担保権を譲渡してもらうことになっていたから、右仮登記をしなかったと供述するが、前記認定のとおり、右組合の控訴人に対する前記最高裁判所の判決が言い渡されたのは同月八日であり、日時的にみても、参加人の右供述は到底信用することができない)、また、前記所有権移転登記(これが他の権利者に対する関係で対抗要件として効果があるかはともかくとして)がなされたのも地目変更がなされてから五年余も経ってからのことであり、その他、被控訴人も主張するとおり、昭和四二年一〇月当時、本件(一)の土地上には本件建物が存在しており、しかも右建物については、金融機関から競売の申立てがなされていたこと(甲第三号証参照)、成立に争いのない丙第一号証の二、参加人の本人尋問の結果により認められるとおり、本件(二)の土地につき本件(二)の仮登記がなされたとき、肝腎の本件(一)の土地については仮登記がなされていないのに、売買の対象となっていなかった控訴人所有の他の多くの土地について参加人のため虚偽の仮登記がなされていること、更には、もし本当に参加人が権利を有していたとすれば、本件参加申立てを被控訴人の本件訴訟(昭和六〇年(ネ)第二六二〇号事件)が提起されてから一五年も経った平成二年三月まで何故提起しなかったのかなど、本件(二)の仮登記については極めて納得しがたい事情が多く存在していることは事実であるが、ただ、本件(二)の仮登記、すなわち昭和四二年一〇月二六日付の売買予約が通謀虚偽の意思表示によるものと認めるに足りるだけの立証はいまだないといわざるを得ない。

前記認定事実によりば、参加人と控訴人の間には、昭和四二年一〇月二六日ごろ、本件(二)の土地につき売買予約(又は右土地(農地)の所有権を参加人が取得することができることを停止条件とする売買)が成立し、後に参加人は代金を支払って、本件(二)の仮登記を経由し、遅くとも昭和五六年六月二四日には右予約完結権を行使したということができ(右停止条件付売買と解しても、地目変更は昭和五一年四月二六日になされている)、これにより参加人は控訴人から本件(二)の土地の所有権を取得したというべきである。

3. したがって、控訴人は参加人に対し、本件(二)の土地につき、本件(二)の仮登記に基づく本登記手続をすべき義務がある。

四、被控訴人に対する請求について

被控訴人が本件各土地につき参加人主張の仮処分登記を経由していることは当事者間に争いがなく、右事実及び以上認定してきた各事実によれば、被控訴人が不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項の「登記上利害ノ関係ヲ有スル第三者」に当たることは明らかであり、被控訴人は、参加人が本件(一)、(二)の仮登記に基づく本登記手続をするについて、その承諾をすべき義務があるといわなければならない。

第二、昭和六〇年(ネ)第二六二〇号事件について

被控訴人の控訴人に対する請求は、被控訴人が昭和四二年一二月九日控訴人から本件各土地を買い受けたことを理由とする所有権移転登記手続請求であるところ、右売買の事実が立証される限り、被控訴人から控訴人に対する右所有権移転登記手続請求が認容されるのは当然のことであるが、本件各土地については、被控訴人のほか、前記認定のとおり、参加人も同じく控訴人からこれを取得しているのであり、しかも、参加人は本件各仮登記を経由しており、本件参加訴訟において、右仮登記に基づく本登記手続請求が認容されており、その結果、何らの対抗要件を備えていない被控訴人は右所有権取得を参加人に対抗することができない立場にある。

ところで、参加人の本件参加訴訟は、前記認定のとおり、控訴人に対しては本件各仮登記に基づく本登記手続請求を、被控訴人に対しては、被控訴人が後順位の仮処分登記権利者であるとして、右本登記手続の承諾を求めるものであって、形式上は被控訴人に対し本件各土地の所有権確認を求めてはいないものの、その内容は被控訴人に対しても本件各土地が参加人の所有であり、少なくとも参加人に対する関係において被控訴人の所有権を否定しているものであることは明らかである。そして、参加人が、被控訴人と控訴人との間に係属していた本件訴訟(昭和六〇年(ネ)第二六二〇号事件)に当事者参加申立てをしたのは、本件各土地所有権をめぐる紛争を、被控訴人と控訴人の間だけでなく、参加人と被控訴人、控訴人の三者の関係においても同時に矛盾なく統一的に解決するためであり、したがって、被控訴人の控訴人に対する前記所有権移転登記手続請求も右参加訴訟の形態、目的から制約を受けざるを得なくなるというべきであり、本件訴訟においては、被控訴人が参加人に対し本件各土地の所有権を主張できない立場にある以上、控訴人に対してもまた右所有権を前提とする請求はできなくなると解さざるを得ない。もし本件参加申立てがあるにもかかわらず、被控訴人の控訴人に対する右所有権移転登記手続請求もまた認容されなければならないとすれば、被控訴人がこの判決に基づき、参加人に先立って所有権移転登記をすれば、参加人は再び被控訴人を相手として本件各仮登記に基づく本登記をするための承諾請求をしなければならないし、また参加人が先に本登記をしてしまうと、被控訴人は勝訴判決があるにもかかわらず、その結果を実現することができなくなってしまうのである。このような結果を避けるためには、前記のとおり、本件訴訟における被控訴人の請求を否定するほかはない。

よって、被控訴人の控訴人に対する右所有権移転登記手続請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないというべきである。

第三、結論

以上の次第であって、参加人の控訴人に対する本件各土地につき本件各仮登記に基づく本登記手続請求及び被控訴人に対する右本登記の承諾請求はいずれも理由があるが、被控訴人の控訴人に対する右各土地につき所有権移転登記手続を求める請求は理由がなく棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決(主文第一項)は不当であるから、これを取り消して、右のとおり参加人の各請求を認容し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例